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バンリの過去、独白 【1】 [小説:Dolly Shadow]

 
 ……僕のこと、ですか?
 僕のことなんて、お話してもあまり面白くはないと思いますが。
 え、カウンセリング? 貴方が、ですか?
 ふふ、そうですね……
 それでは、少しお話しましょうか。
 長い話になるかもしれませんけど、聞いて下さいますか?
  
 
 僕は、ごくありふれたサラリーマンの家に生まれました。
 父の種族はクロメ、母の種族はラヴォクスでした。僕は、母の方の遺伝子を濃く継いだようです。
 家の経済状態は、豊かとは言えませんが特に貧しくもなく、平均的だったと思います。
 父は、とある巨大企業に勤めていました。
 あまり芽が出ず、当時せいぜい係長クラスだったのではと思います。それでも、山のように存在する子会社ではなく、グループ最中央の本社に所属していたわけですから、それなりに才覚はあったのかもしれません。
 子供は、二人いました。
 僕『バンリ』と、そして、二歳年上の兄『カイリ』です。
 兄のカイリはクロメ、弟の僕はラヴォクスとして生まれました。
 ですが、種族は違えど、僕たち兄弟はとてもよく似た顔をしていました。もちろん、雰囲気の違いはあるでしょうけれど。
 ええ、雰囲気も、何もかも……

 兄と僕は、外見はよく似ているのに、内面は全く違ったのです。
 兄のカイリは、幼い頃からとても優秀でした。
 頭が良く、機転が利き、運動神経にも優れていました。ハキハキと利発で、何事にも物怖じしない積極性があり、あらゆる面で大人に好かれる要素を持っていました。
 それに比べて、弟の僕は……
 僕はとても内気な子供で、勉強でも、運動神経でも、全ての面で兄よりも劣っていました。
 大人達の前では身を竦ませてしまい、子供らしく笑うことも出来ない…… 可愛げのない子供だっただろうと思います。
 父は、優秀な兄をとても可愛がっていました。
 その一方、不出来な僕のことは…… 父にとっては、酷く気にくわない存在だったようです。
 ことあるごとに、父は僕に辛く当たりました。
 気にくわないことがあれば僕を怒鳴りつけ、それでも足りなければ、手を挙げられたことも…… 何度も、ありました。
 いえ、仕方のないことですね。
 にこりとも笑わず、いつもビクビクと顔色ばかりうかがっている子供。そんな子供を、可愛く思えるはずがありません。
 そもそも、僕がどうしてそんな子供になってしまったのか……
 それは、わかりませんが。

 父が僕より兄を可愛がったのは、僕がラヴォクスだったのもあるでしょう。
 誰だって、自分と同じ種族の子供の方が可愛いに決まっています。
 ならばラヴォクスの母は僕を可愛がってくれたかと言うと、そうではありませんでした。
 母はとても大人しい性格で、父の言いなりだったのです。
 それに、母だって優秀な兄の方が可愛かったに違いありません。僕は、本当に…… ただ物陰でおどおどしているような、陰気な子供でしたから。
 兄のカイリは、そんな僕のことを、時には庇ってくれました。
 でも、それは本当に『時々』で、それ以外の時は見て見ぬふりをしていたようです。
 兄の利発な、そして少年らしく魅力的な笑顔は、今でもよく覚えています。
 僕には、とても出来ない笑顔でした。
 よく似た顔をしていても、表情までは同じにならないものですね。内面が外見に及ぼす影響は、とても大きいのだと思います。
 兄は、時に、僕のことをとても可愛がってくれました。
 ですが、そうかと思うと…… まるで手のひらを返したように、僕に酷い仕打ちをしたりもするのです。もちろん、両親のいないところで。
 可愛がられたり、酷いことを言われたり。
 何がなんだか、今でもよくわかりません。僕の兄は、一体どういう人だったのでしょう。
 気まぐれで可愛がってもらっても、僕は決して嬉しくはありませんでした。
 それどころか、逆に恐ろしく思ったのを覚えています。
 ただ、僕がひねくれていただけならいいのですが…… 僕は、兄の笑顔がとても怖かったのです。
 どうしてなのか、理由は今でもわかりません。
 ただ、兄カイリのことは…… 今でも、まだ…… 怖いです。

 そんな兄のことを、父は溺愛していました。
 僕は全てのことを兄と比べられ、やがて、比べることもされなくなりました。
 僕だって、少しは努力をしたつもりです。
 少しでも自分を認めてもらえるように、子供ながら、心を砕いた時期もありました。
 でも、そんなのは無駄なことでした。
 僕が何をやっても、兄の前では全てが霞んでしまい、僕の頑張りが評価されることなどなかったのです。
 それどころか、ますます父の機嫌を損ね、怒鳴られるばかり。お前はなんという出来損ないなのか、と。
 僕は、何をやっても駄目だ。
 僕には、何の取り柄もない。
 何の、価値もない。
 幼かった僕は、自分のことをそう思い込み…… ますます暗く、陰気な子供になってしまいました。
 本当に、我ながらなんて可愛くない子供だったのかと。
 僕を毛嫌いしていた父の気持ちも、今になってみれば、少しわかる気がします。

 ですが、そんな父の気持ちなど、幼い僕にはわかりません。
 僕は父のことを恐ろしく思い、父の言動ひとつひとつに怯えてばかりいました。
 どうしたら、自分の身を守れるのかと。
 家にいる時間は、僕にとってはまるで針のむしろのようでした。
 手を挙げられることが、怖くてなりませんでした。誰だって痛いのは嫌です。まして、子供なのですから。
 僕にとって、父は恐ろしい暴君です。
 でも、逃れることなんて出来ません。父のお陰で、僕は生かしてもらっているのですから。
 僕は、耐えるしかありませんでした。
 いつ終わるかわからない嵐を、ただ蹲って堪え忍ぶしかなかったのです。



 ですが、そんな僕に…… ある日、一筋の光が射しました。
 僕が、8歳の時でした。
 
 
 
 あの日のことは、よく覚えています。忘れるはずもありません。
 僕が、初めて千紗さんと出会った日。
 あの日から、僕の周りの環境は、めまぐるしく変わっていったのです。

 あの日…… 僕は、父の些細な忘れ物を届けに、父の会社へ行きました。
 8歳の子供に無茶なことをと、思われるかもしれませんね。でも、お話した通りの父ですから、僕を下僕のように扱ってたのです。
 それとも、僕ならば出来るという期待でもあったのでしょうか。……それならば、少しは救われますけど。
 そうして、僕は何とか父のいる会社には着きました。
 本社ではなく、子会社のひとつでした。父はそこへ出向していたのです。
 何とか事情を話して中に入れてもらいましたが、父は手が離せないというので、僕は待合所のような場所で長いこと待たされました。
 知らない場所……
 知らない大人達だらけの場所……
 幼心に、自分が場違いな存在だとわかりました。
 頼るべき父は、いくら待っても来てくれません。それに、例え来てくれたとしても、父は僕を怒鳴りつけこそすれ、守ってなどくれないでしょう。
 不安で…… 怖くて……
 押しつぶされてしまいそうで……
 そんな僕は、今にも泣き出しそうな顔をしていたそうです。
 あの人が、そう言いましたから。
 そんな僕に、あの人は興味を持って下さったのです。
 子供らしい、好奇心で。

 それは、突然のことでした。
 何か元気な足音がしたと思って、顔をあげると…… ひとりの子供が、僕の側に駆け寄って来たのです。
 僕と同じ歳くらいの、男の子でした。
 ブロンドの髪をリボンで束ねた、とても良い身なりの子です。
 ビロードのような黒のブレザーに、胸元にはリボンタイ。半ズボンと白いハイソックスの間に見える脚はすらりと細くて、履いている革靴もぴかぴか。彼が『お金持ちの子』であることが、子供の僕にも一目でわかったほどです。
 彼は、怯えている僕の顔を、遠慮することなくのぞき込んできました。
 そして、どうしたんだ? と、不思議そうに尋ねました。
 何をそんなに怖がっているんだ? と。
 僕は、どうしたらいいかわからなくて…… ただ、首を振るしかありませんでした。
 だって、怖いもの。
 そんなことを言ったような気がします。
 少年は、しばらく不思議そうにしていました。
 何しろ僕はすっかり怯えていて、要領を得たことなど言えませんでしたし。
 それに、突然知らない男の子に側に寄って来られて…… 内向的だった僕は、気後れしてしまったのです。

 僕たちは、あまりかみ合わない言葉を二・三交わしました。
 そうしているうちに、僕がとにかく酷く不安に思っていることを、少年も理解したのでしょう。
 彼は僕の隣にひょいと腰掛けると、胸ポケットを探りはじめました。
 そして、これをやるから泣くなと、笑いながら何かを差し出して来たのです。
 彼が僕にくれた物……
 それは、テントウムシの形をした、チョコレートでした。
 銀紙に描かれた、可愛いテントウムシの絵。その鮮やかな赤い色を、今でも良く覚えています。
 彼のポケットに入っていたせいか、それは少し溶けかけていました。
 だけど、促されるままそれを口に入れると…… とろけるようなミルクとチョコレートの甘みが、ふわりと口いっぱいに広がったのです。
 なんて、なんて…… 美味しいんだろう。
 僕は、心からそう思いました。
 もちろん、僕だってお菓子くらい食べたことはあります。でも、美味しいなんて思ったことはありませんでした。
 だけど、彼がくれたチョコレートは……
 僕が震える手で銀紙を剥くのも、怖ず怖ずと口に入れるのも、彼はずっと見守っていてくれました。
 とても、とても、優しい笑顔で。
 気が付いたら、身体の震えが止っていました。
 チョコレートが溶けてなくなる頃には、少年への気後れも和らいでいました。
 こんなに、美味しくて…… 優しいことは、はじめて。
 僕は、とても戸惑いました。
 だって、こんなことは初めてだったのです。
 どんなこと? って、具体的には説明出来ませんが…… でも、本当に初めてだったのです。
 こんな、暖くて……
 優しくて、甘くて…… 胸の奥が、むずむずするような……
 こんな気持ちは、僕、はじめてでした。

 僕は、彼にお礼を言わなければと思いました。
 ありがとうと、言ったような気がします。
 すると、彼は少しの間、僕をじぃっと見つめました。今思えば、まるで息を飲んだように。
 そしてまたニコッと微笑むと、一緒に遊ぼうと言ってくれたのです。
 彼は僕の手を引いて行こうとしましたが、僕は父を待っていなければいけません。
 僕が慌ててそれを言うと、彼は聞き分け良く頷いて、また僕の隣に腰掛けました。
 そして、僕のことを、偉いなと褒めてくれたのです。
 僕の手を、ぎゅっと握ったまま。
 ……ああ。
 今まで僕は、偉いなんて言ってもらったことはありませんでした。
 まして、こんな優しい笑顔で…… こんな風に、手を握ってもらいながら、なんて。
 少年の手は、とても暖かかったのです。
 目の前で揺れるブロンドの髪も、その笑顔も、何だか眩しいほどでした。
 なんて暖かいのだろうと、思いました。
 まるで、お日さまみたいだ…… そう、思いました。

 そうして二人でいた時間は、あまり長くはなかったと思います。
 彼がやって来たのと同じように、それはとても唐突でした。
 突然何人もの足音がバタバタとやって来たかと思うと、あっという間に僕たちを取り囲んでしまったのです。
 それは、黒いスーツに身を包んだ大人達でした。
 僕は突然のことに驚いて、またビクッと身を竦ませてしまいました。だって、そうでしょう。こんなに怖そうな大人達が、何人もいるのですから。
 だけど、少年はちっとも物怖じした様子は見せません。
 それどころか、彼ら大人達に向かって、遅かったじゃないかなんて言うのです。
 まるで、王子様のような態度です。
 僕は、ビックリしてしまって…… 声も出せませんでした。
 どうやら、大人達は少年を捜していたようでした。ああ良かったとか、大丈夫でしたかとか、そんなことを言っていたような気がします。
 そんな大人達に、少年は、僕の手を引いて言ったのです。
 この子が遊んでくれたから平気だ、と。
 すると、あんなに怖そうな大人達が…… たちまち、優しい笑顔で僕を見ました。
 そして、ありがとう、いいこだと、口々に言いながら頭を撫でてくれたのです。
 一体、何が起こったのでしょう。
 大人達に代わる代わる撫でられながら、僕は何がなんだかわかりませんでした。
 頭を撫でられたのだって、初めてかもしれないのに。
 僕の上に手をかざされた時、僕は、思わず身をすくめてしまったのに。
 こんなに怖そうな大人達が、僕に優しくしてくれているのです。
 ただ、この少年のひと言を聞いただけで……

 頭を撫でられている僕を、少年は、何故か嬉しそうに見ていました。
 そして、僕の手をそっと離すと、今度は半ズボンのポケットをごそごそ探り始めました。
 だけど、彼の手が、何かを取り出す前に……
 もうひとつの奇跡が、起こったのです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



■ と、ここで続きます。
バンリの過去はいつか書こう書こうと思っていたので、バンリ本人に語ってもらっちゃいました^^
バンリの少年時代は、下手するとエージェント時代よりも辛かったであろう暗黒時代です。
だからこそ、千紗の存在が輝いて見えたのでしょうけど。
バンリが決定的に千紗を『光』だと思うようになるのは、次の奇跡から。
この時の千紗少年との出会いで、バンリの今後は大きく変わっていくのです。

banri43.jpg
「全く…… 甘い物ばかり本当によく食うな、お前は……」
「ふふっ、だって美味しいじゃないですか♪」

甘い物がないと生きていけない。
バンリをそんな子にしたのは、誰のせい?^^
甘い物が好き。
特に、チョコレートは…… 大好き。
そんなバンリにとって、甘い物は心の栄養です。だから、いくら食べても大丈夫。
チョコレートを食べてる時のバンリは、特に幸せそうな笑顔です。

■ 実は千紗との出会いは前に30の質問みたいなので書いたのですが、もっと詳しく語らせてみました。
千紗の服装は描写しましたが…… バンリの服装は、やっぱりブレザーにネクタイ、半ズボンにハイソックスに革靴だったろうと思います。
もちろん、千紗のほど高級じゃない、普通の子供服…… と言うか、きっと兄カイリのお下がり。(バンリの服はみんなカイリのお下がりだったと思う)
この頃から、眼鏡はしてたかどうか。実はまだ決めてないんですけど。
まだ眼鏡はなくてもいいかなぁ。

■ そうそう、バンリのお兄さん…… 名前変えました。
バンリの兄がセンリではあまりにも安直なので、「カイリ」に変更。大人になってからの名前は、「海里」の予定です。
こないだ泉里とか言ってたのは忘れて下さい…… や、「泉里」も字面は割と好きなのですけどね……
と言うか、これから先ホントに登場するかはわからないんですけど^^;
 
 

 
 
■ 今日、バンリがやっとトランスフォームを覚えました^^
わーい、これで設定通りムシチョウに変身出来る! ということで、さっそく変身変身。

banri44.jpg
「さて、これからお仕事です……」

おお、ムシチョウバンリもなかなか綺麗。
髪飾りがよく似合います。これからお仕事だから、きっと女装モードなんだ……^^ (しかも着物)
せっかくなので、千紗と同じイッカクフェレルにも変身ー。

banri45.jpg
「いかがでしょうか、千紗さん……」
「あ、ああ…… 綺麗だと、思うぞ。バンリ……」

わぁ、フェレルのバンリ綺麗な色!
エメラルドグリーンですね。すごく可愛いなぁvv 小さいサイズのフェレルは、やっぱり女の子みたいに見えますね。
……エメラルドグリーンのドレスに身を包んだバンリ……(また女装;)
バンリはどの種族になっても綺麗な色になってくれそうなので、変身して遊ぶのが楽しみです^^
 
 
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狗ノ

こんばんは~お邪魔致しますv
バンリさんの独白ドキドキしながら拝見しました。シリアスな語り口調の展開がドラマチックで続きがとっても気になりますウフ・・・それにしてもいつも文章が面白くて憧れますドキドキ^///^今後も活躍応援していますv
さて、先日は企画にご応募くださりありがとうございましたv素敵な設定、とてもわくわく拝見させていただきました!過去まで細やかでとっても楽しかったですv企画絵、完成いたしましたので、宜しければお持ち帰り下さいv
by 狗ノ (2009-05-16 22:37) 

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